朝日新聞2012年4月7日掲載記事
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観光ボランティアガイドになる最新情報 朝日新聞2012年4月6・7・8日掲載記事より
観光ボランティアになる❶
「おもてなしの心」で案内
 「梅まつり」の最終日を迎えた3月20日、静岡県熱海市の熱海梅園は大勢の人でにぎわっていた。
 「この梅の木をよくご覧ください。この枝には白い梅が咲いていますが、向こうの枝はピンクでしょう。勝手に咲き分けるので『思いのまま』と名づけられているんですよ」
 黄色いジャンパー姿の小林幸雄さん(62)が指をさしながら解説をする。白とピンクの花がついいた枝をそれぞれ見つけ、横浜市から訪れた中島昭男さん(58)が「本当だ」と声をあげた。
 小林さんは、市民のボランティア組織「熱海まち歩きガイドの会」のメンバーだ。梅まつりの期間中、約40人の会員と交代で園内の見どころを案内した。
 この日は、中島さんの母(89)の足元を気遣い、さりげなく段差の少ない道を選んだ。一緒にまわった10歳の男の子が飽きないよう、「『梅見の滝』の周りの岩は、何でできているか」といった3択クイズも用意した。言葉を交わしながら、あっという間に所定の40分が過ぎた。
 小林さんは一昨年、早期退職を機に東京から熱海市に夫婦で越してきた。ガイドの養成講座の案内を市の広報紙で見つけ、「自分も楽しめ、人様にも喜んでもらえる」と申し込んだ。
 風光明媚な土地。おいしい食べ物。もともとほれ込んで移り住んだ土地だが、3か月間の講座で歴史を学び、視野がぐっと広がった。芸妓組合の講義も受け、「おもてなしの心」こそ大事、と肝に銘じた。
 最初は先輩と一緒に歩いた。「ガイドの会」の大山恭子代表(70)は新婚旅行先として熱海がにぎわったのを覚えている世代。生きた歴史を聞き、案内をするタイミング、伝え方、相手の思いをくみ取るガイドの姿勢を学んだ。
 一人で案内するようになっても、反省は尽きない。話題が若い人にピンと来なかったり、コースを間違てしまったり。手帳には、質問にも答えられるよう、街の見どころや歴史を細かく書き込んでいる。
 「熱海に来てよかったと思ってもらい、あわよくばもう一度訪れてほしい。その都度、新たな発見をするお手伝いができれば」(佐々波幸子)
観光ボランティアになる❷
団体を調べ相性みよう
 観光ボランティアガイドになるには、どうすればいいのだろうか?
 「街なかの観光資源や、地域に根付く暮らしの風景を、歴史をひもときながら伝えるのがその役割です」と日本観光振興協会の岩本裕美さんは言う。
 協会の昨年2月の調査によろと、観光ボランティアガイドの組織は全国で1713団体ある。ガイドは年々増えており、4万2560人になった。平均年齢は60歳。男性はリタイア後、女子は子育てを終えてからの参加が多いという。
 一口にガイドといっても、内容はさまざまだ。例えば、熊本城や富岡製糸場を専門に紹介することもあれば、神社や文学記念館などを2時間ほどかけてまわり、自然の見どころを交えて案内することもある。
 「やってみたい」と思ったら、まず地元の市町村で観光や地域振興、生涯学習を担当する課や観光協会などに、どんな団体があるのか尋ねてみよう。自治体や団体が、ガイドの養成講座を開いている場合もある。
 日本観光振興協会はホームページ(htp://www.nihon-kankou.or.jp/vg/index.html)に、協会が把握する各地の団体の情報を細かく載せている。
 同じ地域で複数の団体が活動していることもある。活動の中身や頻度、研修の内容などを確かめ、自分に合う団体を探そう。自治体の助成やガイド料の収入があっても、運営費に使われる場合が多く、ボランティア個人の収益になることは少ない。
 最近は、みそ造りや機織りなど地場産業に携わる人たちと観光プログラムを作ったり、小中学校に語り部として出向いたり、活動の幅も広がっている。手話や外国語など特技がいかせる場合もある。
 相性をみるには、ガイドを受けるのも一つの手だ。住んでいる町でも知らないことは結構ある。もともと住民は、地元を過小評価しがちだ。観光ボランティアは魅力的な観光資源に気づくきっかけにもなる。
 「東日本大震災後、人と人とのつながりが肌で感じられる旅を求める声が高まっています。ボランティアガイドの役割もさらに大きくなっていると感じます」
観光ボランティアになる❸
五感と足で街をとらえる
 観光ボランティアガイドの心得とは、なんだろう。街の歴史や見どころを学んだうえでガイドになるのが一般的だが、研修の内容は団体によってさまざまだ。
 NPO法人「横浜シティガイド協会」では、2年間の研修が必要だ。1年目は座学中心で、横浜の歴史、文化、市の観光戦略などについて学芸員、市職員らから話を聞く。
 2年目はグループごとに街を歩き、自分たちが発見した見どころを地図に書き込む。20年前に協会を立ち上げた嶋田昌子副会長(71)は、次の四つのポイントが大事だという。
 ①五感で街をとらえる
名所や歴史の解説だけではつまらない。「ここの芝生はひなたぼっこに最適」「ここから見る、水に映った逆さランドマークタワーがきれい」といった、生き生きした感覚を大事にする。
 ②人に話を聞く
その土地に伝わる歴史は、地元の人はよく知っている。触れ合い、教えてもらう。
 ③足で確認する
下見は最低2回する。コースを覚えた上で、それぞれのスポットに合わせた資料を用意し、どう説明を組み立てるか考えながら歩く。なじみのコースでも、道路工事をしていたり、気をつけるべき点が見つかる。ベテランほどよく下見をする。
 ④今までのアカを落とす
会社勤めなど、組織にいた人は、上下関係の目線を意識しがちだ。しかし、ボランティアガイド゙は、相手に対して同じ目線でないといけない。
 さらに、活動や組織を長続きさせるコツとして、嶋田さんは①ベテランも学び続ける②後継者を育てる③収支のバランスを考える④自分たちから仕掛ける、という4点を挙げた。
 横浜開港150周年のイベントが終わった一昨年、横浜シティガイド協会ではガイド依頼が減った。そこで、昨年、映画「コクリコ坂から」の舞台をまわるコースを新設した。
 「街ににぎわいを生み出すのは、ハコモノでも行政のカリスマでもない。おもてなしの心を持った個々のボランティアこそが、にぎわいをつくり出せるんです」

(佐々波幸子)
朝日新聞2012年4月8日掲載記事
王寺観光ボランティアガイド
朝日新聞2012年4月6日掲載記事
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